マイクロニードルアレイ(微細針)とは?生体医療における可能性を探る
マイクロニードルアレイとは
マイクロニードルアレイとはシート面に多数の微細な針を並べたものです。針の長さは1mm未満で針の径は注射針と比較して細いのが特徴です。痛くなく薬を適切に体内に浸透させる注射針の代替として医療業界だけではなく化粧品の業界でも注目されています。
医療機関で使用される注射針の太さは0.4mmから1.6mmまであります。インフルエンザワクチンなどの皮下注射は細く、採血用に使われる注射針の径は太いものを使用します。マイクロニードルアレイの針は注射針に比べて細くなる反面、1本あたりの薬液の投入量が減ってしまうため、本数を増やすことで投与量を補います。

人間の皮膚は以下の4層で構成されています。
・角質層 ・表皮 ・真皮 ・皮下組織
角質層が最も硬く、厚さは10~15μmです。その下の約100μmの表皮を過ぎると1~3mmの真皮があり、真皮には毛細血管が張り巡らされています。毛細血管に注射針を刺す場合は少なくとも真皮に到達する針の長さにする必要がありますが、針が痛点を刺激して痛みが生じる場合があります。
痛点の間隔は1cm3あたり50個~350個と言われており、0.5~1mm間隔で痛点が存在する計算となります。痛点を刺激する確率を減らすためには、針の外径を0.1mm以下にするのが望ましいと言われています。ただし細ければ良いというわけではなく、血液採取として使う場合は内径が20μmを下回ると赤血球が詰まるという制約もあります。
痛みを感じない投与の方法として、痛点に達しない表皮の領域まで刺して薬液を投入する用途としても微細針が使用されており、肌へのヒアルロン酸の投入など美容用途で活用されています。針が直接皮膚の中に入り、薬剤が内部で溶解して浸透するため、皮膚に塗布するよりも多くの有効成分を効率よく体内に取り込むことができます。
このように、マイクロニードルアレイには注射針のように針の内部から薬液を注入する中空タイプと針の表面に薬物を塗布して皮膚の内部に針を刺した後薬物を浸透させる中実タイプがあります。
マイクロニードルアレイのメリット
マイクロニードルアレイは固形製剤のため、常温で輸送・保管が可能です。冷蔵のための設備を準備する必要がないため、パンデミックが発生した際に多くの人に接種することができます。また、注射のように使用者が有資格者に限定されていないため、自分で投与することが可能です。その他、投与に痛みを伴いにくい、出血しない、使い捨てができる、飲む薬に比べて効き目が早いなどのメリットがあります。
マイクロニードルアレイのデメリットや危険性について
一方、マイクロニードルアレイは、注射針より細いため、皮膚に挿入した後に折れやすく、折れた針は皮膚内に残存してしまう問題が指摘されています。このような課題を回避するためにポリ乳酸、PLGA(poly-lactic acid-co-glycolic acid)、マルトース、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース及びデキストランなどの生体適合性に優れたものを針の材質に使用しています。これらの材質は水分によって分解または膨潤・溶解する性質があります。針に塗布した薬剤と共に体に浸透し、異物として体内に残存することがありません。
マイクロニードルアレイの製造方法
注射針は通常、ステンレス板をパイプ状に丸めて継ぎ目を溶接して製作をします。しかし、マイクロニードルアレイは注射針よりも細く、機械加工の精度に限界があるため同じ方法では製造できないことから、各研究機関の開発によって、さまざまな製造方法を確立されてきました。
以下に非溶解型と溶解型の製造方法を記載します。

非溶解型
1.シリコンを素材とする場合
・ウェット及びドライエッチング法
2.金属製
・電気メッキ法、光化学エッチング法(チタン)
・レーザー切断-折り曲げ法(ステンレス)
3.中実型マイクロニードルの素材として合成高分子を用いる場合
・圧縮成形、マイクロインジェクション成型、キャスティング成型などの鋳型成型法及び接触引き上げ(下げ)法
溶解型
・キャスティング成型を含む鋳造成型法
・成型すべき素材の水溶液に薬物を溶解して鋳型に流し込むことで成型
薬液を皮膚内部に投入するためには、皮膚の中で最も硬い角質層を開く必要があります。針の強度が弱いと座屈が生じてしまい、角質層に刺すことができません。
座屈の式は次で表されます。針の材質が比較的柔らかいものでも、針の長さを短くすることで、座屈が生じにくい針の設計にすることができます。
座屈P=nπ2EI/L2
(P:座屈荷重、n:係数、π:円周率、E:ヤング率、I:断面二次モーメント、L:針の長さ)
細胞穿刺用マイクロニードルアレイ
当社の持つ極細線製造の技術は、マイクロニードルアレイのような生体医療分野に使用する極細線に適用する可能性を十分に秘めています。
例えば、マイクロニードルアレイは薬液の注入だけではなく、細胞単位での操作にも注目されています。人間の細胞の平均的な大きさは直径20μm程度と言われていますが、細胞よりも細い径のマイクロニードルを使用することで細胞の配列を変えることや、細胞内で発現したtRNAやたんぱく質などの極微量の物質の採取にも活用できます。
世界最細レベルの線径である8μmのピアノ線を製作した実績を活かし、当社ならではのアプローチによって、マイクロニードルの課題に対応いたします。
